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#58 「筋力はあるに越したことはない」という言い回しについて

アスリートにしろ、いわゆる健常者にしろ、便宜上それらに当てはまらない人にしろ、「筋力はあるに越したことはない」という言い回しは、多くの場合当てはまります。「~に越したことはない」という言葉は、汎用性があります。

「~に越したことはないから…」もあれば、「~に越したことはないけど…」もあります。「~しないといけない」という強迫的な思考が、あまり望ましくない場合であれば、後者の視点に助けられることもあると思います。

筋力に限らずですが、「筋力はあるに越したことはない」と言えば、確かにその通りかも知れませんが、だから「レジスタンストレーニングをすべき」というのは飛躍していると思います。

個々の目的によって優先順位があり、個々の生活や習慣がありますから、「筋力はあるに越したことないから、レジスタンストレーニングをすべき」として、それを取り入れることは目的や優先順位を無視することになるかも知れませんし、生活や習慣を見直す必要があります。

レジスタンストレーニングを行う時間の確保、疲労のマネジメント、栄養の見直しなどが必要になりますし、時間を確保するということは何かを減らしたり削るということになります。

元々優先順位が低いこと、ムダがあるとすれば、時間を確保することは出来るかも知れません。しかし、疲労のマネジメントや栄養の見直しなど、時間の確保だけではありません。モチベーションもあるでしょうし、そもそもやはり、目的と優先順位があります。

時間を確保出来るとして、その時間をレジスタンストレーニングに費やした方が有益なこともあるでしょうし、今まで取り組んでいたことにもっと時間をかける方が有益なこともあるでしょうし、第3の取り組みの方が目的からすればよりベターかも知れません。

「筋力」はあくまで例なので、別の例を挙げます。例えば理学療法士の自己研鑚として、「解剖学、運動学、生理学、神経科学などの知識は、たくさんあるに越したことはない」と言えば、確かにその通りだと言えます。

だからと言って、それらの専門書を隅々まで読んで覚えることが、優先順位として高いかと言えば、便利な言葉ですがケースバイケースです。現在の臨床において、曖昧なままにしている知識があるとして、その知識の不足が曖昧な介入になっているのであれば、それを出来るだけ明確にしようとする取り組みは必要だと思います。

そうだとすれば、「知識はたくさんあるに越したことはない」けれども、「今はこの知識の補充が優先順位としては高い」ということになると思います。時間が無限にあるのなら別ですが、現実は有限ですから優先順位を考える必要があります。

ただ、現状の課題のみを取り組めば良いのかと言えば、そうとは限らないので、課題に対する取り組みを広げていくことや、未来に想定される必要になるであろうことも、取り組んでおくということはあると思います。

このように考えると、単純な話ではないのかも知れません。しかし何れにせよ、やはり目的を明確にすることと、優先順位を考える必要はあると思います。

「筋力」の例に戻すと、「筋力はあるに越したことはない」としても、抽象的ではなく具体的なケースになった時に、個人の身体機能だけでなく、仕事、学業、家事、趣味など、それらの内容や時間、睡眠時間、食事の内容やタイミング、疲労の程度など、様々な要素がありますから、「筋力向上」に取り組むよりも、見直した方がよいこともあるはずです。

広義のコンディショニングという観点で考えると、身体(心身)に関わる専門職はある程度の共通認識と言いますか、決して専門性が分断されているわけではないという観点を共有した方が、円滑なコミュニケーションや連携が図りやすいように思います。

【参考記事】

(リ)コンディショニングメモ

#1 コンディショニングとは?

それぞれが分断されているわけではないという話で言うと、レジスタンストレーニングにしても、「筋力」だけに関連するものではありません。身体機能・構造レベルだけでなく、人によっては睡眠の質が上がったり、栄養に関する意識が高まったり、ストレス解消…など、ポジティブな効果は個々によって色々あるかも知れません。

ただそういったことを強調しすぎると、極端に言えば万能なもののように考えようとすれば出来なくもないですが、それらはレジスタンストレーニング固有の効果ではなく、代替可能なケースもあるはずです。

【参考記事】

(リ)コンディショニングメモ

#92 「徒手療法」は万能か?

今回は、「筋力」を例に話を進めてきましたが、「○○に越したことはないから、△△をすべき」という言い回しは、色々なものを代入して考えても同じようなことが言えることも多いと思いますから、あくまでも例として挙げたまでです。

少し視点を変えてみると、現状では優先順位が高くなくとも、いずれは高くなるのであれば、「やる」「やらない」ではなく、「少しずつ取り組んでいく」という選択肢はあると思います。「やればすぐに効果が出る」ものなら別として、本格的な導入を見据えた準備段階といった位置づけで取り組んでいくということです。

色々書いてみましたが、「○○に越したことはない」の○○には、いくらでも代入出来ますから、それを達成するための手段もいくらでもあります。

目的あっての手段であり、個別性を考慮すること、長期的な視点を持つことが必要になると思います。その中で時間は有限ですから、優先順位を考える、やるやらないだけでなく割合を考える…といったことを考えることになると思います。

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