アーカイブ

#30 イチロー選手と筋トレの話題について

一時期、イチロー選手のインタビューが話題になりました。

「トレーニングで身体を大きくしてそれを活かすのが流行っている」という振りに対して、「全然ダメでしょ」と答えておられました。イチロー選手自身も一時期、筋トレを熱心にされていて、身体も大きくなったと仰っていました。身体が大きくなって嬉しくなったとも仰っていました。

インタビューの問い掛けは、「筋トレについてどう思いますか?」ではないですし、どちらかと言うと筋肥大に対する話だと思います。これを、「イチロー選手は筋トレを否定した」と、トレーニング指導の専門職もSNSなどで話題にしていましたが、ちょっとズレていると言いますか、早合点だった人もいるかも知れません。

兎にも角にも、日本で1994年から7年連続首位打者となり、2001年にはメジャーリーグで首位打者を獲得し新人王にも選ばれました。1994〜2010年の17年連続で打率3割以上をマーク、1993〜2016年現在まで24年連続ホームランを継続中、その他様々な数字がありますが、走力や守備力も42才の現在(10月には43才)でも大きな衰えを感じさせない選手です。

脚が遅くて肩が弱くて柵越え出来ないパワーであれば、筋力、パワーが必要だとなるかも知れませんが、そうではありません。フリーバッティングでは柵越えを連発、スタンドの中段以上に軽々放り込む選手に「パワーがない」と簡単に言えません。しかも大きな怪我もなくプレイし続けておられます。

イチロー選手の指す「筋トレ」、というよりも、「筋トレ」という言葉自体、共通認識があるようでないのかも知れません。走攻守にわたって見せるパフォーマンスを支える体力要素を向上させてきたわけで、それはバットやボールを使った練習以外も取り組んできたはずです(よく取り上げられるのは初動負荷トレーニングですが)。

「筋トレ」は、体力要素を高める一つの手段であり、体力要素を向上させる手段をトレーニングと捉えるとすれば、イチロー選手は明らかにトレーニングを行っていると言えます。

例えば、ここではいわゆるベーシックなレジスタンストレーニングを「筋トレ」と呼ぶとして、筋トレを実施することで、より高いパフォーマンスを発揮出来る可能性はあるかも知れません。

しかし、筋トレを実施する為にはその時間と労力が必要になります。ではイチロー選手の取り組まれている何を削れば良いのかという話になりますが、少なくとも外野の人間からは分かりませんし、イチロー選手にとって削れるものはない可能性もあります。

イチロー選手が大事にされている取り組みを変えてでも、筋トレを実施した方が良いと考える専門家もいるかも知れません。専門家として相当な知識と技術と知恵と経験を持っていれば、そう考えてもおかしくないかも知れません。

しかしながら、筋トレが悪いという意味ではなくとも、今まで必要であると感じていたものを削り筋トレを導入することにより、歯車が狂ってパフォーマンスが落ちる可能性もあります。プレイするのは選手ですし、それで活躍出来ず、試合に出られなければ引退するしかありません。

一方で、専門家は担当する選手が引退しても、他の仕事があるとも言えます。野球選手として出来るだけ長くプレイしたいという希望を叶える為に力になれる実力と、結果が全てである選手と同等の覚悟を持てる専門家でなければ、釣り合いが取れないと思います。

選手はトレーニングの専門家ではありませんから、それをトレーニングの観点のみで揚げ足をとるのはおかしな話です。イチロー選手は野球に関しては超一流の専門家ですから、超一流のパフォーマンスに必要な「こと」や「もの」に対する考え方にも、聴く耳を持つべきではないでしょうか。

また、もちろんイチロー選手に限ったことではないですが、ネットなどで責任のない外野からそれらしく選手の考えや感覚、取り組みを否定的に語るのも少し違和感があります。専門家という名の狭い視野で一流の選手を否定したところで、対等にもなれないし、偉くもなれないので、個人的には止めた方が良いと思います。

イチロー選手の例で言えば、あれほどのパフォーマンスと記録を残し続けている選手から、何かヒントが得られるのではという思考が必要だと思います。大きな怪我をせず、走攻守にわたって高いパフォーマンスを発揮し続ける、そういった選手を、筋トレの捉え方とか、筋トレをするしないという観点だけで捉えるのは勿体ないと思います。