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#28 正しい運動を伝えて出来るなら簡単です。

「膝をつま先より前に出さないように」「膝が内側に入らないように」「腰が丸まらないように」「もっと体を倒してお尻を引いて」…スクワット指導において聞いたことのあるセリフだと思います。このような指示が正しいとか間違っているという話ではありませんが、あれやこれやと指示を複数出すことで余計に難しくなるということはあります。

特に最初からこれから実施する運動について、注意点を並べてもイメージし辛いでしょうし、そもそもその望ましくないとされる現象がみられるかどうか、実際にやってみないとわからないことが多いと思います。ですからまずは指導者が適切な運動を観せることが重要だと思います。運動観察によって、運動する前から準備が出来るといったことも期待出来ます。どのように観せるかということは考える必要があると思いますが。

具体的な修正ポイントは実際に行うことで初めてわかるわけですし、運動を行いながらあれやこれやと注意を向けていては、上手く動くことが難しくなります。極端な話、観せてやってもらったら最初から上手く出来るかも知れません。

「膝をつま先から前に出さないように」「膝が内側に入らないように」といった指示はすべて自分自身の運動のスキルへの注意、いわゆるインターナルフォーカスとなりますが、このインターナルフォーカスが運動パフォーマンスを低下させたり、運動学習を阻害する可能性があるという研究もあります(インターナルフォーカスは良くない、エクスターナルフォーカスは良いということではありません)。インターナルフォーカスやエクスターナルフォーカスに関することを、分かりやすくまとめている本がありますので、ご存知のない方はご参考に。

スクワットに関して言えば、立位からしゃがんで立ち上がるという基本動作に類似した運動になりますから、特にいわゆる健常者であればスムーズに行う能力は既にある可能性があります。もちろん修正の余地があることも多いかも知れませんが、最初から注意点をあれこれと並べて難しくする必要はないのではという話です。反対にスムーズに出来ることを、自己に向けた注意を指示されることで、たちまち上手く出来なくなるといった話は、ベルンシュタインのヒキガエルとムカデの話にも出てきます。

『ゲロゲロ。きみはなんて器用で美しいんだゲロ。もしぼくにそんなことができたなら、すべてをなげうってもいいくらいだ。 きみの技の秘密を教えてほしいな。きみのダンスはとってもすばらしいんだけど、ぼくには見当もつかないことがたくさんある。どうか答えてほしい。23 番めの脚を上げているとき18 番めと39 番めの脚はどうなっているの? あと、14 番めの脚といっしょに動く脚はどれか知りたいな。それから、7番めの脚を前に動かしてるとき、3番めの脚はどれが支えてるゲロ?』

こう言われて、ムカデは全く動けなくなったという話です。熟練したアスリートがインターナルフォーカスによってパフォーマンスが低下するといった研究はありますが、ヒキガエルとムカデの話を例に挙げたわけですね。

導きたい運動を運動学的な指示を与えたところで上手くいかないといったことは多いと思います。「その通りにすれば良いのだろうけど、運動学的な指示で出来るようになれば苦労しない」とも言えます。出来るように導く必要があるので、いくら正しい運動をそのまま言語化したところで出来なければ仕方ありません。それを「言う通りにしないからだ」とするのはおかしな話になります。

最初の例に戻りますが、「膝をつま先より前に出さないように」「膝が内側に入らないように」「腰が丸まらないように」「もっと体を倒してお尻を引いて」といった指示をしなくても、和式便所にしゃがもうとすれば上手く出来るかも知れませんし、運動のポイントを股関節の屈曲に絞るだけで全て上手く出来るかも知れません(※膝をつま先より前に出してはいけないという話ではなく例えばの話です)。

大事なのは結果であって、どのようなアプローチが正しいのかという話ではないと思います。「結果は正しい」とは、魚住廣信先生がよく仰る言葉ですが、「上手く動けないのは、上手く動けない言葉掛けをしている」ことが原因かも知れません。そう考えるとやはり言葉は大事だなと思います。

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